(令和7年12月8日提訴)
【被告】 岡山県 (代表者 知事 伊原木隆太)
【事件番号】 令和7年(ハ)第127号 (津山簡易裁判所)
令和8年(ワ)第12号 (岡山地方裁判所津山支部)
令和8年(ネ)第166号 (広島高等裁判所岡山支部)
事件概要
この事件は、令和7年9月7日、鏡野多目的屋内運動場(かがみのドーム)の近辺にて、原告が政治活動を行っていたところ、岡山県警津山警察署の警察官複数名が、原告の政治活動を妨害・制止した事件である。
事件の詳細は訴状に記載しています。
事件後の経過
原告は、岡山県警が政治活動を制止・妨害した行為に対し憤りを感じていたので、事件翌日(令和7年9月8日)に苦情申出書を岡山県公安委員会に発送した。
令和7年12月1日に、岡山県公安委員会より原告あてに「問題が認められない」との通知文を受領した。
(以上までは、「岡山県公安委員会に対する苦情申立書」の項目に記載)
このままでは納得いかないとの判断で、令和7年12月8日に、岡山県を相手に、訴状を津山簡易裁判所に提出した。
訴訟後の主な経過
注)本事件に限っての記載にとどめる。他事件との時系列は、他の事件のページと比較してご覧ください。
令和8年2月19日 津山簡易裁判所民事1係 第1回期日
原告が和解条件を提示したが、被告が断ったので、事件の内容を鑑み、岡山地裁への移送が決定した。
令和8年4月22日 岡山地方裁判所津山支部民事2係 第1回期日
裁判所は、被告に対し、次回期日にあたり争点に沿った反論書を提出するように指示
令和8年6月26日 第2回期日(結審)
被告反論書に対し、原告は反論しないとの宣言をしたため、結審した。
令和8年8月21日 判決
裁判所は原告の請求を棄却した
令和8年8月24日 控訴
今に至る
訴訟等の資料
一部、分かりやすいように文言を修正、省略しています。
<訴状>
被告 岡山県(代表者 知事 伊原木隆太)
政治活動の妨害および名誉棄損による慰謝料請求事件
【請求の原因】
第一 当事者について
1.原告は、政治団体「かがやけかがみの」の代表者である。
2.被告は、原告が路上において政治活動を行っているのを違法に妨害した団体(組織)である。
第二 本件提訴に至る事情(請求の原因が発生した当日)
1.原告は、令和7年9月7日午前8時20分頃に岡山県苫田郡鏡野町竹田124にある鏡野多目的屋内運動場(以下「かがみのドーム」と書く、イベントが行われていた場所)近くの駐車場に車を停め、近辺を探索した。その際、イベント主催者が依頼した警備員は数名見かけたものの、警察官らしき人は見かけなかった。
2.原告は、午前8時45分頃,かがみのドーム」の入り口より南約100メートルの歩道上にて、政治団体「かがやけかがみの」の政治活動として,ポータブル拡声機(拡声機)を持参したポールで固定し,有線式のマイクを用い政治活動を行っていた。
3.当日イベントが行われていたかがみのドームは、側面のシャッター(写真で言うと,青いシャッター)が解放されており、会場内からスピーカーの音が洩れており、原告がいる場所 でも音が何となく分かる感じであった。
4.午前9時まで拡声機を用いて政治活動を行い、午前9時15分頃まで拡声機使わず、その後拡声機を用いて政治活動を再開した。説明を補足すると、午前9時から会場内でイベント開会の挨拶があることを公表していたため拡声機を使っておらず、会場内で挨拶が終わったことを確認して拡声機を用いた政治活動を再開した。加えて、午前9時30分からイベント会場内でアトラクションがあることを知っていたので、午前9時までの段階で拡声機にて,午前9時 まで拡声機を使うことと、午前9時30分に撤収することを言っていた。
5.同日、午前9時15分過ぎに,警察官らしき人がかがみのドームの入り口付近にパトカーを停車させ,原告に近寄り午前9時20分ごろに警察官らしき人と思わしき人より「今すぐ(政治活動)を止めろ」 と命令された。
6.原告は「誰が通報したんだ!」と拡声機で叫び、手を上で振ると(一般でいう「ガンバロー」とか言って手を挙げる感じで)、警察官らしき人は強引に体を抑え、強制的に演説を制止させ、有形力の行使 を行った。
7.その後、その警察官らしき人は「道路使用許可を取っているのか」とか「拡声機でお前とかいう言葉を使うような演説は政治活動じゃない」など意味不明なことを言い、反論しても一切聞く耳を持たなかったため、原告は「あんたらとは話にならないので喋らない」というようなことを伝え、警察官らしき人に対し刑事二課の人を呼んでくれと再三再四頼んだにも何ら対応しなかったため、同日午前9時28分に110番通報を行い、現場の警察官らしき人は政治活動のことが一切理解できておらずお話にならないので刑事二課の刑事をこちらに来させるよう依頼を行った。
8.7ののやり取りの間に警察官らしき人が集まり、最大で7名くらいに取り囲まれた。
9.午前9時50分頃、全く刑事二課の刑事もやってくる様子がなく、原告は相当恐怖に感じ、このままでは精神的に持たないと感じたため 「ここでの政治活動を止めるからもういいですか?」を伝えた上、警察官らしき人と合意しその場から離れた。
第三 本件提訴に至る事情(請求の原因が発生した翌日以降)
1.令和7年9月8日に、警察法第79条(苦情の申出等)および国家公安委員会規則第11号(苦情の申出の手続きに関する規則)に基づき、 苦情申出書を岡山県公安委員会に発送した。
2.1項の苦情申出書に基づき,令和7年12月1日に岡山県公安委員会より通知文を受領した。
3.原告は、2項の通知文において「問題は認められない」と被告が主張したため、本件提訴を行った次第である。
第四 不法行為
1.民法第709条の不法行為
原告の政治活動を演説妨害という手段で妨げることは、権利侵害行為となる。
2.民法第710条の不法行為
被告は原告に対し警察官らしき人に囲まれたことによる精神的苦痛、および110番通報をしても一切対応しなかったことに対する精神的苦痛を味わった。また、警察官らしき人に囲まれたときの写真はX(旧Twitter)に未だに掲載しており、現在でも精神的苦痛を受けている。
3.民法第723条の不法行為
原告が被告に囲まれた様子を近隣のイベントに参加していた大勢の人に見られており、原告の名誉を棄損した。
4.警察官職務執行法第二条1項の違反
警察官らしき人は、単に政治活動として街頭演説をしているにも関わらず、「犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由」がないにも関わらず政治活動を制止させ職務質問を強要する行為は、警察官職務執行法第二条1項違反に当たる。
5.憲法第19条および憲法第21条違反
原告は、近隣に人が集まっている(「鏡野町産業まつり」のため)ところから約100メートル離れ、イベントに支障が出ないよう配慮して政治活動を行ったにもかかわらず、被告は憲法を無視し原告の権利を妨害した。
第五 被告の主張
岡山県公安委員会の通知文を通じての被告の主張の概要は以下のとおりである。
1.政治活動の妨害について
A.当該職員が、現場において、貴方に政治活動を止めることを命令したり、政治活動を妨害した状況は確認されませんでした。
B.他社とトラブルになる可能性があった貴方の行動を制止した状況が確認されましたが、適正な職務執行であり、問題は認められませんでした。
2.110番通報をしたが取り合ってもらえなかった
通報に基づいた適切な対応を行っており問題は認められませんでした。
3.複数の警官に取り囲まれることで,精神的苦痛を受けた
直接対応する警察官らしき人を1人に絞っていたから、原告に配慮していた。
第六 被告の主張に対する原告の反論
1.第五-1項について
事情は第二項のとおりである。これが政治活動の妨害であり、被告の不当な職務執行であると主張する。
2.第五―2項について
被告の地域部通信指令課の対応は不知。それ以降の対応も不知。
原告が分かっている範囲では、午前9時50分頃まで最初に集まった最大7名くらいの警官らしき者以外の警官もしくは私服刑事らしき者は来なかった。
なお、この事件の翌日の午前中に、原告は近隣のイベントで津山警察署に相談したらしき人(観光産業振興課の職員)と鏡野町役場で事情を聞いている。
その職員が言うには、警察に相談したのは午前9時頃を聞いており(通報ではないんですねと念押しして聞いたら通報ではないと言っていた)、それが正しいとすれば近隣の津山警察署から15分以内で現場に到着していた。以上の理由から,被告の言い訳は明らかに矛盾していると推認される。
事件現場において警察官らしき人から「近隣住民から通報があった」という虚偽と思われる説明をしており、仮にイベント主催者以外に通報・相談があったとしても近隣の一般住宅まで最短で150メートル位の距離が離れており、またイベント会場からのマイクの音声が大きく、原告の発した音が大きかったのかイベント会場からの音量が大きかったのかは不明である。
3.第五-3項について
警官らしき者に囲われたのだから、そのときは恐怖以外感じることができなかった。
被告は、警察官らしき人1名からしか話していないとかいかにも原告に配慮しているような言い訳をしているが、現場で囲まれたら明らかに凶悪犯のような扱いであり、明らかに名誉棄損とも言える行為と言わざるを得ない。また,イベント参加者がSNSにおいて警察官らしき人に囲まれた掲載しており、多くのイベント参加者がその様子を見ていたことが分かる。
第七 被告の責任
近隣で人が集まるイベントがあることを知り、原告はイベントに支障が出ないよう、イベント会場入り口より約100メートル離れて政治活動を行った。
加えて、イベント会場で挨拶を行っている時間は拡声機を使わない配慮を行っており、イベント参加者に極力迷惑がかからないよう配慮して活動を行っていた。
にもかかわらず、被告は状況を一切確認せずほぼ一方的に政治活動を妨害し、原告の政治活動の機会を逸してしまった。
加えて、原告は政治活動に詳しい刑事二課の刑事を呼び,現場確認をした上で可否を判断して貰うつもりであったが(現に刑事二課に刑事さんに確認してダメだと言ったらすぐ撤収するとも被告と思われる警察官らしき人に伝えていた)、粘着質に警察官らしき人は政治活動に関して無知であることを知りながら、一方的に政治活動を止めさせようと原告を取り囲み制止・威圧した。
この事件以降、精神的苦痛により政治団体「かがやけかがみの」の街宣活動はほぼ停止し、街頭においてまともな政治活動が出来なくなった。
また、SNSにこの当時の写真が掲載されており、まるで原告が悪質な政治活動をした犯罪者のような扱いになっており、見る度に精神的苦痛を受けている。
同時に、この風景を見た近隣のイベント参加者は大勢おり、原告の社会的地位を著しく低下させた。
被告は明らかに意図的に原告の権利を侵害した上に名誉棄損も行っている。
これによる精神的を苦痛や名誉回復に対しての慰謝料も考えると,精神的苦痛等の損害を金銭として正確に算出することは非常に難しいが金30万円を下らない。
第八 結語
よって,被告は原告に対して,金30万円の支払いを求める。
以上、
証拠方法
甲第1号証 事件現場の位置関係 [作成者:Google社(付記は原告)]
甲第2号証 事件現場の様子 [作成者:Google社(付記は原告)]
甲第3号証 かがみのドーム(イベント会場)から見た事件現場 [作成者:X(旧Twitter)ユーザー]
甲第4号証 事件当時の写真 [作成者:X(旧Twitter)ユーザー]
甲第5号証 苦情申出書 [作成者:原告]
甲第6号証 通知文 [作成者:岡山県公安委員会]
甲第7号証 X(旧Twitter)の内容① [作成者:X(旧Twitter)ユーザー]
甲第8号証 X(旧Twitter)の内容② [作成者:X(旧Twitter)ユーザー]
<被告反論書>
令和8年2月5日
被告 訴訟代理人弁護士 板野次郎
岡山市北区富田町二丁目6番15号
板野法律事務所
第1 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
との判決を求める。
第2 請求の原因に対する認否
1 「第一当事者について」
(1) 1は認める。
(2) 2は否認ないし争う。なお、被告は、津山警察署の設置者である地方公共団体である。
2 「第二本件提訴に至る事情(請求の原因が発生した当日)」
(1) 第二の1
令和7年9月7日(日曜日)に、「かがみのドーム」でイベントが行われていたことは認める。原告の行動や認識は不知。
なお、イベントは合併20周年を記念した「2025鏡野町産業まつり」である。
(2) 第二の2
原告が午前8時45分頃に何をしていたかは不知。
原告が、かがみのドームの入口から南約10 0メートルの歩道上(以下「本件現場」という。)でポータブル拡声器(以下「拡声器」という。)をポールで固定し、有線式のマイクと拡声器を繋げて使用できるようにしていたことは争わない。
(3) 第二の3
かがみのドームの西側シャッターが開放していたために、ドーム内の音が漏れ、原告の位置まで到達していたかについては不知。
(4) 第二の4
イベント開会の挨拶が午前9時であること、同9時30分からアトラクションがあったこと、警察官が臨場する前に原告が拡声器を用いて演説を行ったことは認める。その余の主張は不知。
(5) 第二の5
否認する。
津山警察署かぐらお交番の警察官1名(以下「本件警察官」という。)は、午前9時23分頃にかがみのドーム.の入口付近にパトカーを停車させ、本件現場に徒歩で移動し、原告に職務質問を行ったが、原告に対し、「今すぐ(政治活動を)止めろ。」と命令したことはない。
(6) 第二の6
原告が「誰が通報したんだ。」と拡声器で叫び、手を上に振ったことは認める。
その際、本件警察官が強弓1に原告の体を抑え、強制的に演説を制止させるなどの有形力の行使を行った旨の主張は否認する。
(7) 第二の7
本件警察官が、原告に対し「道路使用許可は取っているのか。」、「お前とかいう言葉を使うような演説は政治活動じゃない。」と言ったこと、原告が、本件警察官に対し「あんたらとは話にならないので喋らない。」と言ったこと、本件現場で津山警察署の刑事第二課員を要請した後に110番通報したことは認める。
(8) 第二の8
通報に基づき警察官が本件現場に臨場したことは認めるが、その数は本件警察官を含めて最大6名であり、主な対応者は本件警察官である。警察官らと原告の位置関係が甲4のようになったことがあることは認める。
(9) 第二の9
刑事第二課員が本件現場に臨場しなかったこと、原告が本件現場を離れたことは認める。原告が現場を離れたのは午前10時5分頃である。
なお、原告の11 0番通報を受理した津山警察署は、刑事第二課員を含む宿直勤務員を本件現場に向かわせていたが、原告が立ち去った旨の無線通話を受けたため、引き返えさせている。
3 「第三本件提訴に至る事情(請求の原因が発生した日以降)」
1、2は認める。
4 「第四不法行為」から「第八結語」
争う。
第3 被告の主張
1 本件警察官らの職務執行は適法であること
(1) 臨場と職務質問について
津山警察署は、令和7年9月7日午前9時頃、「職員等に向けて声を荒げている男性がいる。」旨の通報を受理し、同9時4分頃、本件警察官らに現場臨場の無線指令を行った。
本件誓察官は、同9時23分頃、かがみのドームに臨場したところ、現地の警備員が原告を指示したため、通報の対象が原告であることを理解した。
本件警察官が徒歩で近づいたところ、原告は「政治活動をしている。政治妨害になるぞ。」などと牽制したが、本件警察官は通報内容からけんか口論の可能性を認め、事実確認のため、警察官職務執行法2条1項に基づき、原告に職務質問を開始した。
原告は、質問に対し「私の母親は議員に自殺させられた。このことは警察へも相談に行っている。鏡野町をよくしようと思ってこうしたことをしている。」等と意図を説明した。
(2) 有形力の行使について
その後、本件警察官は、原告から通報者は誰かと問われ、「通報者については教えることができない。」と伝えたところ、原告は、興奮した様子で、
かがみのドーム方向に「お前らが通報したんじゃろ。都合の悪いことを言われたからじゃろ。」
と拡声器を通じて大声を上げ、本件警察官がたしなめると、原告は、拡声器を使わずに肉声で大声を張り上げ、かがみのドームに徒歩で向かおうとした。本件警察官は、イベント関係者との衝突を防止するため、原告の前に立ちはだかり、大声を出さないように警告した。
(3) 原告と警察官の位置関係について
前記第2の2 (8) のとおり、原告の対応者は本件警察官に限定し、その他の警察官は、原告と距離を保つように配意している。
(4) 刑事第二課員を臨場させる義務とその不履行について
刑事第二課員を臨場させる義務があったとは考えられないが、前記第2の2 (9) のとおり、原告の求めに応じて津山警察署の刑事第二課員らは本件現場に向かっていた。
しかし、到着する前の同午前9時56分頃から原告が撤収を開始し、本件現場から立ち去ったため、途中で中止した。
2 結語
本件現場における本件警察官らの一連の対応は、原告の特定の政治的主張や政治活動の内容を制限する意図で行われたものではなく、公共の安全と秩序を維持するためになされたものであり、手段も社会通念上相当な合理的なものであって、適法である。
また、原告の11 0番通報に係る要請に関しては、刑事第二課員を臨場させる義務はないうえ、本件現場に向かっていた同課員らが到着する前に原告が本件現場を離れてその要請を放棄したものであるから、いかなる意味でも違法ではない。
よって、原告の請求は理由がないことが明らかであるから、すみやかに棄却されるべきである。
以上
証拠方法
乙第1号証 チラシ(令和7年鏡野町産業まつりのもの) [作成者: 鏡野町産業観光課]
乙第2号証 選挙ポスター(令和7年鏡野町長選挙出馬時のもの)を撮影した写真 [作成者: 原告] 注)写真の作成者は原告ではない。
乙第3号証 X(旧:Twitter)投稿画面を印刷した書面 [作成者: 投稿者]
<原告第1準備書面>
令和8年 2月 12日
被告(岡山県)の答弁書(令和8年2月5日作成)に対する原告の主張を述べる
第一.本訴訟の内容について
1.本訴の争点について
本訴の請求の根拠となる不法行為は、訴状訂正申立書(令和7年12月16日に裁判所に提出。以下「訂正訴状」と称す)の第四項(4頁18行目)以降に書かれている内容である。本訴の争点となる内容を纏めると以下のとおりである。
(1)被告は政治活動を妨害したか
(2)(1)があったとしたら、被告は正当な行為と言えるか
(3)公然と(1)の行為を行うことが名誉棄損と言えるか
(4)(1)の行為は憲法第19条(思想・信条の自由)および憲法第21条(集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由)に反する行為と言えるか
2.被告答弁書の「訴外の事案」について
被告答弁書にて指摘している「原告と鏡野町との間の確執」に関しては全く事件とは関係がない「訴外の事案」である。
よって本訴では被告答弁書(本訴に関わる証拠(乙号証)や証拠説明書は除く)内の訴外案件に対しての認否や反論、言及はしない。
もし被告が「原告と鏡野町との間の確執」について本事件と関係性があると主張するのであれば,被告は民事訴訟法第43条1項に基づいて「鏡野町」の補助参加を裁判所に申し出るべきである。
第二 被告答弁書に対しての原告の主張
以下,被告の答弁書に沿って主張する。
1.第2-1(2)について
被告は津山警察署の設置者である地方公共団体である岡山県であり、本事件が発生した自治体である鏡野町ではない。
2.第2-2(3)について
被告答弁書(同頁14行目)には「西側シャッターが開放」と書かれているが、原告は事件現場から南側シャッターの開放のみを目視で確認しており、その他の場所のシャッターの開閉については不知。
3.第2-2(4)について
被告答弁書によると、午前9時23分頃にかがみのドームの入口付近にパトカーを停車させ(2頁23行目)本件現場に近づいた警察官が「津山警察署かぐらお交番の警察官1名」と書いている。
本来、おそらく地元の鏡野町内の芳野駐在所から警察官が来るのが早いと思うが、わざわざ津山警察署より遠方の「かぐらお交番」の警察官が対応するのは不自然である。
4. 第2-2(8)について
警察官が最大6名と主張しているが、なぜ原告は最大7名と主張しているかを述べる。
原告は多数の警察官に囲まれ実際のところは最大で警察官に囲まれた人数が全く把握できる精神状況ではなかった。
【甲4】には6名の男性警察官に囲まれているのは確認できるが,確かに囲まれた際に女性の警察官1名もいたので7名と主張している。写真には後ろ姿ではあるが,映っている。
5. 第2-2(9)について
原告が事件現場近辺から離れたのは午前10時2分であり,被告が主張している事件現場から離れたのが午前10時5分頃というのは矛盾がある。
事件現場から離れるまでに拡声機1式を持って近隣の駐車場まで持っていき急いで片付けたとしても10分程度必要であり,どんなに早くとも午前10時より遅くなることはない。
それ以降の文章は不知。
6.第3-1(1)(2)について[3頁26行目より]
被告と通報者についてのやり取りは不知。
仮に通報者が原告の素性を知りつつ意図的に誇張した通報もしくは虚偽の通報を行ったとしても、本事件では通報内容について争っていないのだから、通報者とは全く関係がない。
被告が通報者の通報内容を鵜呑みにし,状況を確認せずに原告に対し過剰な対応(本事件)を起こした被告に全責任がある。
午前9時前(イベント開催前)までは継続的に声を荒げたようなことは言っておらず,イベント主催者(鏡野町)が雇っていた駐車場入り口付近にいた作陽警備保障株式会社(本社:岡山県津山市,当時はどこの警備会社か不明であったが,イベント主催者である鏡野町産業観光課に確認をして判明している)の社員が事件現場に来て「今すぐ(政治活動を)止めろ」と言った際に「文句があるんなら警察を呼べ」(注)一言一句同じかどうかは覚えていないが,そういう意図のことを言ったことは記憶にある)をマイクで言っただけである。
被告答弁書には職員等に向けてと書いているが,主として「今すぐ止めろ」と言った警備員に対して言ったものであり,「職員等に向けて声を荒げて言っている」との通報をしたというので正しいと主張するのであれば,警察を急いで動かすために意図的に誇張した通報を行ったと思われる。
これは「軽犯罪法1条16号の虚偽申告」あるいは意図的に原告を陥れる目的であるならば「刑法第172条の虚偽告訴罪」に該当すると推認され犯罪行為と言える。
あと,有形力の行使までのやり取りの内容を書くと(録音を取っていないので,「てにをは」まで正しいわけではない)
・イベント会場の入り口付近から警察官が原告よってくる
・原告「おつかれさまです。通報があったんですか?」
・警察官「今すぐ(政治活動(演説)を)やめろ」
・原告「5分で演説を終わらせますので待っていただけますか?」
(一息ついて)
・原告「誰が通報したんだ!」
・警察官に強引に体を捕まえられる(有形力の行使)
→その後,引き続き警察官に囲まれ政治活動を妨害される。
7.第3-1(3)について[4頁20行目より]
位置関係については, 写真を参照し実際に拡声機をつけたスタンドを設置し測定したところ,原告と最も近い警察官の距離は約15cmと推認される。写真を参照した上,被告が配意しているかどうかについては裁判所の判断に任せる。
8. 第3-1(4)について[4頁23行目より]
訂正訴状5-2項のとおり。
なお,意図的に刑事二課に現場確認をさせようとしなかったこと。
110番通報をしても刑事二課の刑事じゃなくとも警察官を追加すらしなかったのは明らかに職務怠慢だし、少なくとも津山警察署よりパトカーで緊急で駆け付けたとしても20分以内で来ることができる距離にも関わらず現場への到着が間に合わなかったというのは単なる嘘であると推認する。
第三.違法収集証拠について
乙2号証および乙3号証において証拠能力がないものと主張する。
裁判所においては,乙2号証および乙3号証を却下されたい。
1.乙2号証について
原告はこの写真を撮影しておらず,原告が作成者ではない。正確な撮影日時や撮影者を示すべきである。また,写真は偽造または合成で作られたものであると主張する。
本写真(ポスター内も含む)は異質な文字にところがあり,このように
写真として映らない。
以下,代表的な箇所指摘する。
・ポスターの「ポ」の字に奇妙な明暗がある
・掲示場の「示」の字に奇妙な明暗がある
・注意の欄のところの明暗がまちまち
・他に映っている選挙ポスターとデザインが異なる
・ポスター掲示板と背景の位置が不一致
証拠として【甲13】【甲14】【甲15】を提示する。なお,甲号証では後から偽造されることを防止するために加工したものを提示する(無加工のものは必要であれば法廷にて開示する)。
なお,偽造証拠の使用は,刑法169条(偽証罪)に抵触する可能性がある。
2.乙3号証について
被告は本訴に対して何を立証したいのか不明であるが,証拠として提出するならば,本書き込みが原告のアカウントであり,かつ原告自身が書き込みしたものである証拠を併せて示すべきである。
また,本事件との関係性を示すべきである。
第四.結言
本訴訟の争点は第一-1項のとおりである。被告は争点に沿った主張を行うべきである。
乙2号証はいかにも合成写真みたいなもの,乙3号証にあたっては誰が書いたのか不明である。加えて乙2号証と乙3号証が本訴との関係性が不明である。
しかも,乙2号証にあたっては,鏡野町長選挙期間中に意図的に鏡野町および撮影したもしくは鏡野町選挙管理委員会へ持ち込まない限り出せない証拠であり,被告(岡山県)が提出(作成)した証拠でないと思われる。
以上,
証拠方法
甲第 9号証 津山警察署かぐらお交番の場所を含む全体の地図 [作成者: インターネットサイトMapion]
甲第10号証 原告の当日の動き [作成者: Google社]
甲第11号証 拡声機スタンドの角度から分かる原告と警察官の距離 [作成者: 原告]
甲第12号証 津山警察署と事件現場との位置関係 [作成者: 原告]
甲第13号証 選挙ポスター掲示場の位置 [作成者: (鏡野町内の住民)]
甲第14号証 乙2号証以外の場所の鏡野町長選挙ポスター掲示場の写真 3か所 [作成者: 原告(撮影者)]
甲第15号証 乙2号証と同じ場所の鏡野町長選挙ポスター掲示場の写真 [作成者: 原告(撮影者)]
以上
<被告第一準備書面>
令和8年6月16日
被告訴訟代理人弁護士 青山智紀
被告は、以下のとおり弁論を準備する。
1.
国家賠償法による損害賠償責任が認められるのは、公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えた場合であるが、訴状(最終修正後のもの)請求原因第二記載の5ないし8について、いずれも被告は損害賠償義務を負わない。その理由については、以下に述べるとおりである。
2.請求原因第二記載の5の点について
答弁書記載のとおり(第2、2、(5) 及び第3、1、(1)) 、本件警察官は、「声を荒げている男性がいる。」旨の通報を受けて、かがみのドームに臨場し、現地の警備員の指示によって通報の対象が原告であると理解し、上記通報内容から「けんか口論」の可能性がある(すなわち、これらの点から、原告について警察官職務執行法2条1項にいうところの「周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者」にあたる。)と判断し、事実確認のため、警察官職務執行法2条1項に基づき、原告に職務質問を行った。
上記のとおり、本件警察官による、職務質問の要件を満たすとの判断に誤りがあるとは認められないところ、本件警察官は、当該職務質問に際し、「今すぐ(政治活動)を止めろ。」といった命令をすることなく、あくまで任意の質問を行い、原告は拒否することなくこれに応じている(その際の原告の回答が「私の母親は議員に自殺させられた。このことは警察へも相談に行っている。
鏡野町をょゃしようと思づてこうしたことをしている。」といゑ肉容であったことは答弁書記載のとおりであり、乙2号証及び3号証はこのような任意でのやり取りがあったことの信用性を補強するための証拠である。)。
したがって、かかる任意での職務質問について、なんら違法性は認められず、損害賠償義務を負うことはない。
3.請求原因第二記載の6の点について
答弁書記載のとおり(第2、2、(6)及び第3、1、(2)) 、職務質問中に、本件警察官は、原告から通報者は誰かと問われ、「通報者については教えるごとができない。」と伝えたところ、興奮した様子で、かがみのドーム方向に拡声器を通じて「お前らが通報したんじゃろ。都合の悪いことを言われたからじゃろ。」と大声を上げたため、本件警察官はこれをたしなめた。
また、その後、原告は、拡声器を使わずに肉声で大声を張り上げ、かがラのドームに徒歩で向かおうとしたことから、イベント関係者らとの衝突を防止するため、本件警察官は原告の前に立ちはだかり、大声を出さないように警告した。
依然として任意での職務質問が継続していたところ、これらのいずれの行為においても、本件警察官は原告の身体を抑える、強制的に演説を制止させるなどの有形力は行使していないほか、本件警察官が原告の前に立ちはだかったこと.も、あくまで職務質問の継続のために停止させようとしたものにすぎず、いずれも違法性は認められないのであるから、損害賠償義務を負うことはない。
4.請求原因第二記載の7の点について
答弁書記載のとおり(第2、2、(7)) 、本件警察官は、原告に対し「道路使用許可は取っているのか。」、「お前とかいう言葉を使うような演説は政治活動じゃない。」という趣旨のことを述べた。
しかしながら、職務質問の際に道路使用許可の有無を確認することは、特段不合理な質問内容ではない。
また、上記のとおり、原告は拡声器を通じて「お前らが通報したんじゃろ。」などと大声を出し、イベント参加者ら周囲の者に平穏を害する態様の言動を行っていた。
本件警察官は、そのような平穏を害する態様の言葉遣いについて窪めたにすぎないのであって、原告の特定の政治的主張や政治活動の内容を制限しようとしたものではない。
したがって、本件警察官の上記言動について違法性は認められず、損害賠償義務を負うことはない。
5.請求原因第二記載の8の点について
答弁書記載のとおり(第2、2、(8) 及び第3、1、(3)) 、通報に基づき本件現場に臨場した警察官は、本件警察官を含めて最大6名であった。
「声を荒げている男性がいる。」旨の通報であり、状況によっては複数人の当事者がいる「けんか口論」であることも想定されるところ、本件警察以外のパトカー乗務員らにも、現場に向かうよう指令を行ったことから、上記の人数となったものである。
かかる対応について、違法性が認められる点はない。
また、現場での原告への対応についても、本件警察官に限定し、その他の馨察官は原告と距離を保つように配慮して取り囲みといった状況が生じないようにしており、違法性が認められるような対応ではない。
したがって、これらについて損害賠償義務を負うことはない。
6.請求原因第二記載の9の点について
答弁書記載のとおり(第2、2、(9)) 、原告([>1 1 0番通報を受理した津山警察署は、刑事第二課員を含む宿直勤務員を本件現場に向かわせていたものの、原告が立ち去った旨の無線通話を受けたため、警察官らを引き返えさせたものである。
したがって、被告としては、原告の11 0番通報等に適切に対応をしたものであって、なんら違法性が認められるところがなく、損害賠償義務を負うことはない。
以上
証拠方法
乙第1号証 チラシ(令和7年鏡野町産業まつりのもの) [作成者: 鏡野町産業観光課]
乙第2号証 選挙ポスター(令和7年鏡野町長選挙出馬時のもの)を撮影した写真 [作成者: 岡山県津山警察署警察官]
乙第3号証 X(旧:Twitter)投稿画面を印刷した書面 [作成者: 岡山県警察本部警務部警察官]
<判決>
令和8年8月21日判決言渡 同日原本領収裁判所書記官
令和8年(ワ)第12号政治活動の妨害および名誉棄損による慰謝料請求事件
口頭弁論終結日令和8年6月26日
被告
岡山市北区内山下二丁目4番6号
被告 岡山県
同代表者知事 伊原木隆太
同訴訟代理人弁護士 板野次郎
同 池田千明
同 青山智紀
同指定代理人 相原耕一
同 岡田菜摘
同 福田武蔵
同 齋藤義
同 山田啓史
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
被告は、原告に対し、30万円を支払え。
第2 事案の概要等
1 本件は、原告が、警察官が原告に対してした職務質問等は、原告の政治活動を妨害し、名誉を毀損する違法なものであると主張して、被告に対し、国家賠償法1条1項に基づき、慰謝料30万円の支払を求めた事案である。
2 前提事実(当事者間に争いがないか、掲記の証拠又は弁論の全趣旨により容易に認定できる事実)
(1)原告は、政治団体「かがやけかがみの」の代表者である。被告は、津山警察署の設置者である地方公共団体である。
(2)原告は、令和7年9月7日(以下、特に断らない限り同日については時刻のみを記載する。)、岡山県苫田郡鏡野町所在の鏡野ドームから南に約10 0メートル離れた歩道上(以下「本件現場」という。)において、午前9時20分頃に津山警察署所属の警察官が本件現場に臨場するまで、拡声器を使用するなどしながら演説を行った。なお、鏡野ドームでは、午前9時から、「2025鏡野町産業まつり」と題するイベントが実施されていた。
(3)原告は、当該警察官から職務質問を受け(以下「本件職務質問」遅くとも午前10時2分頃には、本件現場から離れた。
3 争点及びこれに対する当事者の主張
本件の争点は、国家賠償法1条1項の違法な行為の存否である。
(1)原告の主張
被告は、下記のとおり、本件職務質問の際に意図的に原告の権利を侵害した上に名誉毀損も行った。
原告は、被告の当該公権力の行使によって違法に損害を受けたものであり、これらによる精神的苦痛や名誉回復の損害を金銭として算出すると、30万円を下らない。
ア 警察官は、午前9時15分頃、鏡野ドームの入口付近にパトカーを停車させて原告に近寄り、午前9時20分頃、原告に対し、「今すぐ(政治活動を)止めろ。」と命令した(以下「本件行為1」という。)。
その後、原告は、「誰が通報したんだ!」と拡声器で叫び、手を上で振ると警察官は、強引に原告の体を押さえ、強制的に演説を制止させた(以下「本件行為2」という。)。
これらは、原告の政治活動を演説妨害という手段で妨げるもので、憲法19条及び21条を無視して原告の権利を侵害するものである。
また、「犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由」がないにも関わらず、政治活動を制止させ職務質問を強要した点で、警察官職務執行法2条1項違反にも当たる。
イ 原告は、警察官に対し、津山警察署の刑事第二課の人(以下「刑事第二課員」という。)を呼んでくれと再三再四頼んだが、当該警察官は何ら対応しなかったため、原告は、午前9時28分に11 0番通報を行い、刑事第二課員を本件現場に来させるよう依頼を行った。
しかし、午前9時50分頃に原告がその場から離れるまで、刑事第二課員がやってくる様子はなく、被告は原告の11 0番通報に一切対応しなかった(以下「本件行為3」という。)。
原告は、110番通報しても一切対応されなかったことに対する精神的苦痛を味わった。
ウ 原告は、前記イのやり取りの間、最大で7人くらいの警察官に取り囲まれた(以下「本件行為4」という。)。
これにより、原告は精神的苦痛を味わった。また、原告が警察官に囲まれた状況を近隣のイベントに参加していた大勢の人に見られており、被告は、原告の名誉を毀損した。
(2) 被告の主張
本件行為1ないし本件行為3は否認する。
本件行為4は最大6名の警察官が臨場し、甲第4号証の位置関係になったことがあることは認める。
本件現場における警察官の一連の対応は、原告の特定の政治的主張や政治活動の内容を制限する意図で行われたものではなく、公共の安全と秩序を維持するためにされたものであり、手段も社会通念上相当な合理的なものであって、適法である。
また、原告の110番通報に係る要請に関しては、刑事第二課員を臨場させる義務はない上、本件現場に向かっていた同課員らが到着する前に原告が本件現場を離れてその要請を放棄したものであるから、いかなる意味でも違法ではない。
第3 当裁判所の判断
1 本件行為1について
原告は、午前9時20分頃、警察官から「今すぐ(政治活動を)止めろ。」と命令されたと主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。
したがって、本件行為1が国家賠償法1条1項の違法な行為であるとする原告の主張は採用できない。
2 本件行為2について
(1) 原告は、警察官が、強引に原告の体を押さえ、強制的に演説を制止させたと主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。
したがって、本件行為2が国家賠償法1条1項の違法な行為であるとする原告の主張は採用できない。
(2)なお、被告は、有形力の行使について、原告が大声を張り上げながら鏡野ドームに徒歩で向かおうとした際に、警察官が、イベント関係者との衝突を防止するため、原告の前に立ちはだかり、大声を出さないように警告したことはあ
った旨を主張し、これに対し、原告は、本件行為4と同様の理由で当該有形カの行使は違法であると主張する。
この点につき、津山警察署が、午前9時頃、「職員等に向けて声を荒げている男性がいる」旨の通報を受理したこと、警察官の臨場後、原告が、「誰が通報したんだ!」と拡声器で叫んだことは争いがない。
警察官は、職務質問に付随して、強制に至らない限り、必要性や緊急性等を考慮し、社会通念上相当と認められる範囲で有形力を行使することができるものと解されるところ、これらの事実関係からすれば、鏡野ドームヘ向かう原告の前に立ちはだかり、大声を出さないように警告したことは、原告とイベント関係者とのトラブルを防止するための必要性及び緊急性が認められる。
警察官の行為態様も、前記必要性及び緊急性を踏まえ、鏡野ドームに向かおうとする原告の前に立ちはだかったにとどまることからすれば、社会通念上相当と認められる。
したがって、当該有形力の行使についても、国家賠償法1条1項上違法であるとは認められない。
3 本件行為3について
原告が、本件現場に臨場した警察官に対し、津山警察署の刑事第二課員の臨場を要請したこと、原告が110番通報をし、刑事第二課員の臨場を要請したこと及び刑事第二課員が本件現場に臨場しなかったことは争いがない。
被告は、原告が刑事第二課員を含む警察官が到着する前に本件現場を離れたのであり、被告は、原告の110番通報に対し、刑事第二課員を含む警察官を本件現場に向かわぜたと主張する。
他方で、原告は、津山警察署から本件現場まで20分以内で到着することができ、被告の主張は虚偽であると主張する。
しかし、津山警察署から本件現場までは約10キロメートル、所要時間は約22分間であると認められる。
他方で、原告は、午前9時28分に110番通報をし、午前9時50分から午前10時2分頃までの間に本件現場を離れたと主張する。
そうすると、原告の主張を前提としても、原告が通報してがら本件現場を離れるまでの時間は22分間から34分間程度であり、上記の所要時間には通報を受けてから津山警察署を出発するまでの時間は考慮されていないこと等を踏まえれば、刑事第二課員を含む警察官が本件現場に臨場する前に原告が本件現場を離れた旨の被告の主張は不自然とはいえない。
そして、他に本件行為3を認めるに足りる証拠はない。
したがって、本件行為3が国家賠償法1条1項の違法な行為であるとする原告の主張は採用できない。
4 本件行為4について
証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件職務質問の際、少なくとも6名の警察官が原告の周囲に立っていたこと、原告と原告に最も近い警察官との距離は少なくとも15センチメートル以上空いており、その他の警察官は当該警察官を挟んで原告と反対側に立ち、原告の周囲を取りむ状況とはなっていなかったことが認められる。
上記の位置関係に加え、当事者が複数人であることを想定して、複数人の警察官に対して臨場するよう指令を行った旨の被告の主張に不自然な点はないことからすれば、警察官らの行為に違法性は認められない。
また、原告の周囲に複数の警察官が立っていたとしても、そのことが直ちに原告の社会的評価を低下させる表現に当たるとはいえず、原告の名誉を毀損するものとはいえない。
したがって、本件行為4が国家賠償法1条1項の違法な行為であるとする原告の主張は採用できない。
5 小括
以上のとおり、本件行為1ないし本件行為3は、原告の主張する事実が認められず、本件行為4は国家賠償法1条1項上違法な行為であるとはいえないから、本件職務質問に際し同項の違法な行為があった旨の原告の主張はいずれも採用できない。
第4 結論
よって、原告の請求には理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
岡山地方裁判所津山支部 裁判官 袋井泰輔
<控訴理由書>
【目次】
第1 本控訴事件の争点について
第2 争点の基となる事実に関して
第3 事実に対する原判決の判断
第4 事実に対する原判決の評価について
第5 本事件の核心に関しての原判決の欠陥
1.行政権の逸脱(鏡野町の虚偽通報)
2.警察権の逸脱(警察官職務執行法2条違反)
3.行政+警察の一体的介入構造(構造的違法性)
4.憲法21条の核心領域への侵害(最も強い表現行為への介入)
5.政治活動かどうかの判断を行っていない
6.近隣のイベントに迷惑がかかっていたか事実認定を行っていない
第6 被控訴人の違法性の具体的指摘に関する原判決の欠陥
1.警察官職務執行法2条および行政法上の審査枠組みを欠く重大な違法
2.治安維持を根拠にした政治活動の妨害行為の正当化
第7 原判決の構造的欠陥
1.本事件を単なる「トラブル」として処理している
2.原判決は争点を全く把握していない
3.審理不尽
4.裁判官の訴訟指揮の違法性
5.証拠評価の過程の欠落(民訴法247条)
6.被控訴人の主張,乙号証および証拠説明書の評価を行っていない
7.裁判官としての著しい能力不足(小括)
第8 原判決が及ぼす社会的影響
1.訴内における被告人の人格の完全否定
2.原判決によって生じる社会的萎縮効果
3.政治活動に対する警察介入の正当性につながる
第9 最後に
第10 結言
【本文】
令和8年(ネ)第166号
政治活動の妨害および名誉棄損による慰謝料請求控訴事件
令和8年 10月 6日
広島高等裁判所 岡山支部 御中
第1 本控訴事件の争点について
以下の4点である(原告 第一準備書面の趣旨に沿って,分かりやすく書き換えている。1頁17行目より)
被告が行った行為は,
(1)政治活動の妨害と言えるか?
(2)正当な行為か?【警察官職務執行法2条】
(3)名誉棄損と言えるか?【名誉棄損は民法709条】 ※民法723条は名誉回復の条文であり間違い
(4)((1)~(3)を踏まえた上で) 憲法第19条及び21条に反するか?
を争点として,被控訴人は国家賠償法第1条に則り求償を求めている事件である。
令和8年2月19日の弁論期日において,被告が争点とは無関係の主張および乙号証(乙1号証〜乙3号証)を提出したため,
裁判長は上記4点が本件の争点であることを明確に確認したうえで、被控訴人に対し「争点に沿った反論を記載するように」と指示した。
第2 争点の基となる事実に関して
本控訴事件の争点の基となった事実の概要は以下のとおりである。
(1)岡山県警の警察官が,政治活動を止めるよう命令した。 (訴状3頁13行目より)
(2)岡山県警の警察官が,政治活動している原告に対し,有形力の行使を行った。 (訴状3頁17行目より)
(3)110番通報しても,岡山県警(指令)は何も対応しなかった。 (訴状3頁20行目より)
(4)最大で7名の警察官に囲まれた。 (訴状4頁4行目より)
第3 事実に対する原判決の判断
第2項に書かれた事実に対する裁判所の判断は以下のとおりである。
( )内の数字は,第2項の事実と対応している
(1)これを認めるに足りる証拠はない。 (原判決4頁8行目より)
(2)これを認めるに足りる証拠はない。 (原判決4頁13行目より)
(3)争いはない (原判決5頁12行目より)
(4)少なくとも6名の警察官が立っていたことは認める。 (原判決6頁3行目)
なお,被告が争点拡大のために主張した内容については,争点とは一切関係が無いため,省略する。
第4 事実に対する原判決の評価について
第3項に関しての原判決の評価について記載する。
( )内の数字は,第2項の事実と対応しており,(1)(2)は「証拠がない」と判断しているため,評価は行っていない。
(3)刑事第二課員を含む警察官が本件現場に臨場しようとしていたが,控訴人がその場をその前に離れたのだから,被告の主張は不自然とは言えない。
(4)当事者が複数人であることを想定して、複数人の警察官に対して臨場するよう指令を行った旨の被告の主張に不自然な点はないことからすれば、警察官らの行為に違法性は認められない。
また、控訴人の周囲に複数の警察官が立っていたとしても、そのことが直ちに原告の社会的評価を低下させる表現に当たるとはいえず、原告の名誉を毀損するものとはいえない。
第5 本事件の核心に関しての原判決の欠陥
原判決は,本件の核心である「行政・警察による政治活動への一体的介入」という構造を全く認定しておらず,事実認定・法的評価の両面で重大な欠陥を有する。
1.行政権の逸脱(鏡野町の虚偽通報)
「鏡野町の虚偽通報」が本件の争点ではないため、ここでは「背景事情」として位置付けるにとどめる。
(1)被控訴人の主張によると,「鏡野町職員が『職員等に向けて声を荒げている男性がいる』と警察に通報したこと」(被告反論書 第3―1(1)項より)が,警察官が現場に来る契機となったと推認される。
加えて,被控訴人の主張によると,「本件警察官は通報内容からけんか口論の可能性を認め」(同 被告反論書 第3―1(1)項より)と書かれているが,けんか口論の相手方が存在しない以上,通報内容は事実と整合しない。
(2)鏡野町が行った行為は,軽犯罪法1条16号(虚偽申告),相手が分かっており政治活動を止める目的で通報したならば刑法172条(虚偽告訴罪(目的犯)),地方公務員法36条(政治的中立義務)に該当する重大な犯罪行為である。
2.警察権の逸脱(警察官職務執行法2条違反)
被控訴人(警察官)が行った行為は「臨場」(被告反論書 第3―1(1)項など)と何度も書かれているが,これは「政治弾圧行為」そのものである。
(1)「臨場」とは,警察官が通報や指令を受け,危険・異常・トラブルの発生が疑われる現場に急行し,状況確認を行うために現場に到着することをいう。
したがって,臨場と評価するためには,警察官職務執行法2条1項が要求する「異常な挙動その他の事情」すなわち,危険・異常・トラブルの可能性が存在することが前提となる。
(2)本事件では,控訴人は単に政治活動を行っていただけであり,危険・異常・トラブルのいずれも存在しない。
周囲には「けんか口論」の相手方となる人物も存在せず,通報内容自体が事実と一致しない。
(3)それにもかかわらず,本件警察官らは
・多数で近接し(密着)
・控訴人の周囲に立ち並ぶ囲繞状況を形成し(囲繞)
・退路を塞ぎ(退路封鎖)
・声を出させないよう身体で制止し(制止)
・表現内容の介入(言論弾圧)
を行った。
(4)これらの行為は,政治活動を実質的に封じる妨害行為であり,状況確認(臨場)と呼べる性質のものではない。
(5)よって,被控訴人の行為は警察官職務執行法2条1項が定める職務質問の要件を満たさず,政治活動に対する不当な介入=政治弾圧行為として評価されるべきであり,臨場と評価することはできない。
3.行政+警察の一体的介入構造(構造的違法性)
鏡野町が政治活動を排除する目的で通報し,被控訴人(警察)がこれに追随して多数臨場した結果,行政権と警察権が一体となって政治活動を抑圧する構造が形成された。
公的機関同士が連携して政治活動に介入する構造そのものが,民主主義の根幹を揺るがす重大な違法性を有する。
(1)控訴事件における政治活動は,控訴人が元鏡野町長選挙立候補者であるという立場からして,単なる政治的表現にとどまらず,憲法21条が最も強く保障する「選挙活動の自由」と密接不可分である。
鏡野町による虚偽通報と,それに追随した被控訴人(多数の警察官)の囲繞により,控訴人は政治活動を継続できない状況に置かれた。
(2)本事件では,政治活動妨害に関する事件であるが,上記事情を鑑みると,実質的に選挙活動の自由を事実上封じるものであり,公的機関による選挙活動への介入=選挙活動の自由を実質的に侵害するものである。
(3)加えて,犯罪性が全く無いにも関わらず,「出所不明の者」(鏡野町長選挙を行っていた鏡野町であると推認)が撮影した令和7年の選挙ポスター【乙第2号証】を出して,
いかにも控訴人が被疑者(悪く言えば悪人扱い)として扱っており,政治活動に対して介入を行っていたという明白な証拠である。
(4)原判決はこの点について一切審査を行っておらず,憲法上要求される厳格な審査義務を欠く重大な違法である。
4.憲法21条の核心領域への侵害(最も強い表現行為への介入)
政治活動は日本国憲法21条が保障する最も強い表現行為であり、公的機関が政治活動に介入する場合には、目的・必要性・相当性を極めて厳格に審査しなければならない。
にもかかわらず、鏡野町の通報と警察の追随により、控訴人の政治活動が多数の警察官によって実質的に抑圧されたことは、憲法上の審査義務を欠く重大な違法行為である。
5.政治活動かどうかの判断を行っていない
控訴人が行っていた行為が「政治活動かどうかの判断」は、判決の根幹であり,重大事項である。
(1)公的文書では,政治活動は以下のように定義している。
政治活動とは、たとえば政治上の主義若しくは施策を支持し、推進し、若しくはこれに反対すること、公職の候補者を推薦し、支持し、若しくはこれに反対すること、政党を支持し、反対し、若しくはその活動に参加すること、
又は政治上の意見を発表すること等を含む所謂政治的活動一切をさすものである。
昭和25年6月1日,長野県知事あて労働省労政局長通知(労収第3288号)
https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb5112&dataType=1&pageNo=1
(2)被控訴人は,控訴人は「政治活動」を行っていた行為が政治活動を認めていたからこそ,【乙第2号証】【乙第3号証】を乙号証として提示したと考えるのが普通であると主張する。
(3)「政治活動かどうかの判断」は,日本国民の権利(日本国憲法第21条)の行使に該当するかの問題であるにも関わらず,原判決に書かれていないことは重大な欠陥と言わざるをえない。
6.近隣のイベントに迷惑がかかっていたか事実認定を行っていない
原判決には,控訴人が行った「政治活動」が,鏡野町主催のイベントであった「2025鏡野町産業まつり」(以下「イベント」と書く)にとって「社会通念上許容される限度」から外れているか事実認定を行っていない。
(1)原判決では,以下のとおり被控訴人の行為の正当性について容認している。
原告は、…(中略)…津山警察署所属の警察官が本件現場に臨場するまで、拡声器を使用するなどしながら演説を行った。 (原判決2頁7行目より)
警察官は、職務質問に付随して、強制に至らない限り、必要性や緊急性等を考慮し、社会通念上相当と認められる範囲で有形力を行使することができるものと解されるところ、…(中略)…、
大声を出さないように警告したことは、原告とイベント関係者とのトラブルを防止するための必要性及び緊急性が認められる。
警察官の行為態様も、前記必要性及び緊急性を踏まえ、鏡野ドームに向かおうとする原告の前に立ちはだかったにとどまることからすれば、社会通念上相当と認められる。 (4頁25行目より)
(2)「必要性」「緊急性」「社会通念上相当」と判断し,「政治活動」を制止するには,以下の順序が必要であると主張する。
① イベントに迷惑がかかっているのか?
② ①の迷惑が「社会通念上許容される限度」を超えていたのか?
③ 緊急で警察官が制止する必要性があったのか?
①~③を勘案した上で,「社会通念上相当」と認められるはずである。
原判決では,その判断がなされていない。
(3)仮に①と②をすっ飛ばして③を根拠に制止するのであれば,例えば通行人に対して危害を加えているとか凶器を持って暴れているなど,明らかに住民や通行人に危害を加えるおそれがあるときなら理解できる。
(4)①について,イベント主催者(鏡野町)が「迷惑」や「不快」に思うことは,警察官職務執行法2条の要件には含まれず,職務質問の根拠にはならない。
(5)②について,「社会通念上許容される限度」はイベント主催者(鏡野町)が受忍すべき限度の判断である。イベント主催者(鏡野町)がどのような重大な支障があるかどうか(受忍限度を超えているか)を判断する必要がある。
騒音計という手段でなくても,客観的にどのような手段で確認したのか不明であり,原判決では一切言及されていない。
(6)③について,控訴人は,
・通行人に迷惑のかからない場所(イベント会場から100m程度はなれた場所)において
・拡声器を設置し
・マイクを持って街頭演説(政治活動)をしていた
だけであり,明らかに緊急性があるとは考えられないのが当然である。
(7)以上を踏まえて,政治活動を制止してもいいという相当性の判断(相当性の範囲の検討)を行う必要があるにも関わらず,原判決には「社会通念上相当」と判断しており,事実認定を行うにあたっての段階を踏んでいない。
第6 被控訴人の違法性の具体的指摘に関する原判決の欠陥
原判決は,被控訴人(警察)の行為が適法かどうかを判断するための法的審査枠組みを全く適用しておらず,事実認定・法的評価の両面で重大な欠陥を有する。本項では,原判決が看過した具体的な違法性を指摘する。
1.警察官職務執行法2条および行政法上の審査枠組みを欠く重大な違法
原判決は,警察官の行為が警察官職務執行法2条に基づく適法な職務執行であるか否かについて,同条が要求する「異常な挙動その他の事情があると認められる場合」 という職務質問の要件を全く検討していない。
(1)警察官職務執行法2条は,警察官が市民に接触し,その行動を制限する場合には,
・明確な疑わしい事情
・犯罪予防・危険防止の必要性
・質問の必要性・相当性
・代替手段の有無
など,厳格な法的要件を満たすことを要求している。
(2)本件のように、控訴人が政治活動中であり,多数の警察官が近接して立ち並び,政治活動がまともにできない状況になった場合には,その行為が2条の要件を満たすかどうかを厳格に審査する必要がある。
(3)しかし原判決は,警察官が控訴人に接触した理由,その必要性,危険防止の要件,職務質問の根拠,介入の相当性,代替手段の有無といった行政法上の審査基準を一切検討していない。
(4)これは行政行為の適法性判断として裁量権の逸脱濫用の審査枠組みを欠く重大な違法であり,原判決は法的評価として到底維持し得ない。
2.治安維持を根拠にした政治活動の妨害行為の正当化
治安維持を根拠とした政治活動の妨害行為は,現代の民主主義国家にとって,絶対に行ってはいけない行為である。
(1)判決文によると,
”証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件職務質問の際、少なくとも6名の警察官が原告の周囲に立っていたこと、原告と原告に最も近い警察官との距離は少なくとも15センチメートル以上空いており、
その他の警察官は当該警察官を挟んで原告と反対側に立ち、原告の周囲を取り囲む状況とはなっていなかったことが認められる。
上記の位置関係に加え、当事者が複数人であることを想定して、複数人の警察官に対して臨場するよう指令を行った旨の被告の主張に不自然な点はないことからすれば、警察官らの行為に違法性は認められない。” (6頁3行目より)
被控訴人と警察官の距離を重視し,「この事件は大したことでない」ように書いているが,名誉棄損を論ずるに必要なのは,
「被控訴人が大勢の警察官に囲まれた状況を,多くの町民が来場しているイベント会場から見て,来場者がどのように思われるか」が重要であって,
被控訴人が最大6人や7人のどちらであろうが,被控訴人と警察官の距離が何センチであろうが問題ではではない。
【甲第3号証】および【甲第4号証】は,当時イベント会場に居た人が撮影したものであると思われるが,少なくとも撮影者は,この「被控訴人が大勢の警察官に囲まれた状況」に対し,
何らかの違和感があって撮影し,SNS上に投稿したものと考えるのが当然であり,判決文において「大したことがない」ように書かれているが,元町長選挙立候補者に対する言論弾圧と受け取るのは当然のことである。
加えて,判決文において,「その他の警察官は当該警察官を挟んで原告と反対側に立ち、原告の周囲を取り囲む状況とはなっていなかった」と囲繞状態を完全に否定する文言が書かれているが,
これも前段で書いたとおり,「被控訴人が大勢の警察官に囲まれた状況を,多くの町民が来場しているイベント会場から見て,来場者がどのように思われるか」が重要であり,
事件現場から100m以上離れているイベント会場から見ている町民からしたら,「以前に鏡野町長選挙に出馬した者が,(何か悪いことをやって)警察官に囲まれている」という印象しか持たないのが当然である。
傍から見て被控訴人の社会評価を著しく低下する状態に値するかどうかを判断する必要があるにも関わらず,囲繞状態の詳細がどういうものであったかで判決を行っている。
囲繞状態とは、身体拘束がなくても、退路を塞ぎ、移動の自由を奪う心理的強制である。また,職務質問のための有形力の行使には心理的強制も含まれる。
よって,警察官6名以上が原告を囲繞した状況は,距離が15cm空いていたか否かに関わらず,原告の移動の自由を奪う強制制止に該当する。
加えて,被控訴人は警察官6名以上が原告を囲繞した状況は「任意のやり取り」と主張しているが,上記の理由から,「強制のやり取り」と判断するのが普通である。
(2)被控訴人の答弁書に,
"本件警察官が、原告に対し
「道路使用許可は取っているのか。」
「お前とかいう言葉を使うような演説は政治活動じゃない。」と言ったこと
原告が、本件警察官に対し「あんたらとは話にならないので喋らない。」と言ったこと、
本件現場で津山警察署の刑事第二課員を要請した後に110番通報したことは認める。" (第二の7,3頁5行目)
最高裁判例(昭和44年12月24日判決,京都府学連事件)は,
"表現の自由に対する事前規制(許可制)は、必要性が極めて高度に認められる場合を除き許されない"
と判示している。
歩道での政治活動に対し「道路使用許可」を要求する行為は,この最高裁判例が最も厳しく禁止する「表現の自由への事前規制」に該当する。
さらに,最高裁判例(昭和59年12月18日判決,北方ジャーナル事件)では,
"表現内容への介入は最も強い違憲審査の対象となる"
と明確に判示している。
警察官の「お前という言葉を使う演説は政治活動ではない」という発言は,
・表現内容への介入
・政治活動の定義を恣意的に変更する行為
・公権力による思想統制の危険性を伴う行為
に該当し、日本国憲法第21条の核心領域に対する重大な違法行為である。
しかし,原判決は,被控訴人自身が認めたこれらの発言について違法性の判断を一切行っていない。
政治活動中の者に対する公権力の発言は,その目的・必要性・相当性を最も厳格に審査すべきであるにもかかわらず,原判決はこれらの発言を完全に無視し,治安維持の名の下に警察官の違法行為を事実上正当化している。
これは,行政法上の審査枠組み(警察官職務執行法2条の要件)を欠く重大な違法であり,憲法上の審査義務違反でもある。
よって原判決は、法的評価として到底維持し得ない。
(3)被控訴人の答弁書に,
”刑事第二課員を臨場させる義務があったとは考えられないが,前記第2の2 (9) のとおり、原告の求めに応じて津山警察署の刑事第二課員らは本件現場に向かっていた。
しかし、到着する前の同午前9時56分頃から原告が撤収を開始し、本件現場から立ち去ったため、途中で中止した。" (第三の1(4),4頁24行目)
と書かれているが,刑事第二課は政治活動に関する法的判断を行える部署であり,仮に現場に到着できなくても,無線・電話で状況を把握し,適法性の判断を行うことは十分に可能である。
したがって,被控訴人の「刑事第二課員は向かっていたが,控訴人が撤収したため途中で中止した」という主張は,刑事第二課が現場に到着しなければ判断できないかのように装う不自然な弁解であり,
政治活動の違法性を判断できる専門部署への照会を意図的に回避した疑いが極めて強い。
3.憲法上の審査義務違反
控訴人は政治活動中であり,本件は日本国憲法第21条が保障する「政治的表現の自由」に直接関わる。政治活動への公権力介入は,目的・必要性・相当性を厳格に審査すべきであるにもかかわらず,原判決は憲法上の審査枠組みを全く適用していない。
これは憲法上の審査義務を尽くしていない重大な違法である。
第7 原判決の構造的欠陥
原判決は,本件の法的性質・争点構造・証拠評価を根本的に誤り,政治活動への公権力介入という本件の核心を全く把握していない。本項では,原判決が抱える構造的欠陥を体系的に指摘する。
1.本事件を単なる「トラブル」として処理している
原判決は,控訴人の行為が「政治活動」に該当するかという本件の根幹となる法的評価を行わず,控訴人とイベント主催者(鏡野町)との単なる「トラブル」として処理している。
しかし,「政治活動」と「イベント運営上の支障に関する行為」は法的性質が全く異なる。
・政治活動 日本国憲法第21条の最も厳格な審査が要求される。
・イベント運営上の支障に関する行為 イベント運営上の支障の有無を中心に判断される。
両者は審査基準が全く異なるにもかかわらず,原判決はその区別を行わず,何らの根拠も示さないまま,控訴人の行為を「イベント運営上の支障に関する行為」として扱っている。
控訴人の行為が「政治活動」に該当するか否かの判断は,本件の法的評価の前提であり,判決の結論を左右する重大な事項である。
この区別を行わずに,イベント主催者(鏡野町)との「トラブル」として処理することは,判決としての理由提示を欠き,審査枠組みを欠く重大な違法であり,法的評価として到底維持し得ない。
2.原判決は争点を全く把握していない
争点は第1項に書いたとおりであるが,原判決には争点とは無関係の事項に関して,証拠を一切提出せずに,被控訴人の主張のみで事実認定を行っている。
加えて,第1項内の(3)は警察内部の話であり,争点とは関係なし。
第1項内の(4)は囲まれたことを見られ,かつ元町長立候補者という町民に名前が知られている立場であることから,通常に警察に囲まれている状況とは全く異なる。
控訴人は元鏡野町長選挙立候補者であり,町が大勢参加しているイベントの近隣においてその人物が政治活動中に多数の警察官に囲まれる状況は,一般人が単に警察官に囲まれる状況とは社会的意味が全く異なる。
有権者から見れば「政治活動中の人物に対して警察が監視・介入している」と受け取られ,政治的表現の自由に対する抑制効果が極めて強い。
これは、単なる職務質問の範囲を超え,政治活動を監視・統制するかのような構造を生じさせる。
判決文では,そういった周辺事情を一切考慮せずに判断しており,明らかに行政の忖度によって書かれた判決文と言わざるをえない。この構造は,歴史上の「政治活動への公権力介入」と同質の危険性を持つ。
3.審理不尽
前審では
・証人尋問ゼロ
・本人尋問ゼロ
・検証ゼロ
・書証の取調ゼロ
・被控訴人から争点とは異なる主張をしている
・乙号証も出していないにも関わらず,被告の主張を信用している
という訴訟進行を行い,判決を行っている。これは審理不尽であり,訴訟進行における重大な手続き違反である。
4.裁判官の訴訟指揮の違法性
裁判官の訴訟指揮は,裁判官としての職務遂行能力を著しく欠くものである。
前審の訴訟進行全体からは、裁判所が本件を「民事事件であるから」として軽視したかのような姿勢が明確に読み取れる。
現に,被控訴人が【乙第1号証】【乙第2号証】【乙第3号証】を陳述した際に,控訴人は第一準備書面にて(第三―1項および同2項に記載),裁判所に対し【乙第2号証】【乙第3号証】却下するよう書いた上で,期日において却下するように申し入れたものの,
裁判官は「これは民事事件ですから…」と言うことで,受け入れなかった。
そのことから,裁判所が本件を適切に審理する意思を欠き,当方の主張を正面から取り上げる姿勢がないことは明白であった。
そのことから,控訴人がこれ以上反論を提出しても審理が深まらないことは明らかであると判断し,主張を尽くした上で追加の反論を行わず、早期終結を選択したものである。
加えて,反論しないことを宣言した上で,裁判所は証人尋問・本人尋問・検証・書証取調べを行うことができる権限があったにも一切行わず,裁判を終結した。
判決においては,争点と無関係な乙号証をそのまま採用し,出所が訴訟内で変化するという極めて異常な証拠についても何らの審査を行っていない。
このような訴訟進行は、本件が憲法21条の核心領域である政治活動・選挙活動の自由に直結する事件であることを全く理解していない姿勢の表れであり,裁判所が事件の性質を誤認し,審理義務を尽くしていないことによって、判決の信用性は重大に失われている。
裁判所が「民事事件だから」という理由で憲法問題を看過し,行政+警察の一体的介入構造を全く審査しなかったことは,本件判決が維持し得ない構造的欠陥を示すものである。
5.証拠評価の過程の欠落(民訴法247条)
判決は「証拠が足りない」と結論づけるのみで,どの証拠をどのように評価したのか,その過程を判決理由として示していない。
証拠評価の過程を示さない判決は,民事訴訟法247条が要求する「理由の提示」を欠き,判決としての要件を満たさない。
6.被控訴人の主張,乙号証および証拠説明書の評価を行っていない
(1)判決文において,甲号証,乙号証についてその信用性・証拠価値・争点との関連性を全て言及していない。乙号証については,政治活動妨害に関する反論としての資料の形態にはなっておらず,
加えて乙号証の出所が訴内において変化している(令和8年2月5日および令和8年6月16日作成,被控訴人提出の証拠説明書)。
理由もなく乙号証の出所が変化するのは,明らかに異常な状態であるにも関わらず,判決において一切言及がないのは,判決文を作成した裁判官が証拠調べをほとんど行っていない証拠である。
証拠調べを行っていない判決は,そもそも「判決の要件」を満たしたものでないものであり重大な違法である。
(2)判決文内において,被控訴人の主張をそのまま認容している。
以下のとおり
A.判決文4頁22行目より
"この点につき、津山警察署が、午前9時頃、「職員等に向けて声を荒げている男性がいる」旨の通報を受理したこと、…(中略)…は争いがない。"
(A項に関して)
本控訴事件において,通報者(イベント主催者である鏡野町の職員と推認される)がどのような通報であろうが争点とは一切無関係であるにも関わらず,判決文では「争点がない」と控訴人が認容したと判断されている。
控訴人は通報者,通報内容について一切不明である。
B.判決文5頁1行目より
"…これらの事実関係からすれば、鏡野ドームヘ向かう原告の前に立ちはだかり,大声を出さないように警告したことは,原告とイベント関係者とのトラブルを防止するための必要性及び緊急性が認められる。
警察官の行為態様も,前記必要性及び緊急性を踏まえ,鏡野ドームに向かおうとする原告の前に立ちはだかったにとどまることからすれば、社会通念上相当と認められる。"
(B項に関して)
まず,控訴人は鏡野ドームヘ向かってはいない。なぜ事実認定されたかが不明。
被控訴人が原告の前に立ちはだかったことも,そもそも鏡野ドームに向かっていないから,なぜ事実認定がされたか不明。
「誰が通報したんだ!」と拡声器で叫んだ(判決文4頁24行目)以降は,拡声器を一切使用しておらず,肉声だけで100m先のイベント会場に一切迷惑がかかるはずがない。
被控訴人が大声を出さないように警告したことについては確かだが前段のとおり地声で叫んでいたときの行為であり,拡声器を使っていない。
イベント会場に迷惑がかからないように配慮して行っており,イベント会場に一切迷惑がかからないように行っていた。
加えて,「原告の前に立ちはだかった」と書かれているが,それは声を出させないよう「タックル」みたいな感じで掴まれたのであり,行く手を阻まれたのではない。
どちらにせよ,控訴人はイベント会場に迷惑にならないよう,過剰に被控訴人が対応しているから,明らかに警察官職務執行法2条に逸脱した行為と言わざるをえない。
C.判決文5頁13行目より
(引用は省略)
控訴人は,被控訴人(津山警察署)の刑事第二課を向かわせたこと自体,不知である。そもそも,現場警察官から通報者情報を含め,何ら説明を受けていない。
控訴人は,通報時間や凡その到着時間を確認した上で(でなければ、何時何をしたか記載できない),刑事第二課が来ないこと,そしてこのままでは制服警察官らによる囲繞状況が続き精神的に持たないと判断したため、緊急的に現場を離れたものである。
もし控訴人が刑事第二課を呼んでいたのであれば,その場に留まり,刑事第二課の到着を待っていたはずである。
加えて,控訴人を囲繞していたのは制服組の警察官のみであり,これらの者は「政治活動には道路使用許可が必要」など,政治活動について全く誤った知識しか持っていなかった。
そのため,控訴人は現場警察官に対し刑事第二課の者の出動を要請したが,現場警察官は「何も連絡していない」と述べたため,やむなく110番通報を行ったものである。
そもそも,刑事第二課が対応しようとしていたという点について,被控訴人は主張するのみで,これを裏付ける証拠は一切提出していない。
原判決は被控訴人の主張をそのまま認容しており,証拠評価の公平性を著しく欠いている。
7.裁判官としての著しい能力不足(小括)
原審裁判官の訴訟指揮および判断内容から鑑みると,裁判官として求められる専門性・中立性を欠く著しい能力不足が認められる。
本件は,政治活動・選挙活動の自由という憲法上最も厳格な審査が要求される領域に属するにもかかわらず,原審裁判官は必要な法的理解がない。
憲法問題については,政治活動の自由に関する日本国憲法第21条の条文や理念から失念しており,本件を民事の枠組みで「イベントとのトラブル」として処理している。これはそもそも日本国憲法の存在すら理解していないことを示す。
警察官の対応に関しては,警察官職務執行法2条の要件,政裁量の逸脱濫用の判断枠組みを一切適用しておらず,「警察官のやることは全て正しい」という理念の下で判決を出したとしか判断できず,これは、公正中立という裁判官に求められる資質を欠くものである。
証拠調べの欠落については,証人尋問・本人尋問・検証・書証取調べを行うこともできたにも関わらず,一切行わなかった。原審裁判官は事実認定のプロセスを経ず,
前述のとおり「警察官のやることは全て正しい」という理屈で,被控訴人(警察)が正しいと事実認定を行った。これは裁判官としての証拠評価能力を欠く。
以上の点から,原審裁判官は,本件の法的性質を理解するために必要な専門性を欠いており,原審裁判官は,裁判官として著しい能力不足があると判断するのが相当である。
第8 原判決が及ぼす社会的影響
1.訴内における被告人の人格の完全否定
被控訴人は,本件訴訟を通じて控訴人の人格的利益を著しく軽視し,控訴人の人格を事実上否定する対応を行った。
加えて,原審裁判所は,これらの被控訴人の対応を是正することなく,控訴人の人格的利益に対する侵害を看過した。
その結果として,控訴人の人格的利益を保護すべき裁判所の役割が十分に果たされなかった。
原審裁判所は,被控訴人の主張のみを一方的に採用し,控訴人が提出した証拠については十分な評価を行っていない。
このような審理の在り方は,控訴人の人格的利益の保護という裁判所の基本的役割を十分に果たしたものとはいえない。
控訴人に人格を否定する対応を行った具体例は以下のとおりである。
(1)被控訴人は,控訴人が政治団体代表者であり(訴状1頁目に記載),元町長選挙立候補者であること(他の情報源で知っている可能性も否定できないが,
少なくとも【乙第2号証】を入手した時点で知っていた)を認知し社会的立場を十分に認識していながら,その立場を尊重する姿勢を一切示していない。
(2)政治活動中の者に対し多数の警察官を近接させ囲繞状況を形成したこと自体が,控訴人の名誉・社会的評価に重大な影響を与える行為であるにもかかわらず、被控訴人はこれを「適法」と主張し続けている。
(3)控訴人が受けた精神的苦痛について、被控訴人は一切の配慮を示していない。
控訴人が多数の警察官に囲まれた状況をイベント参加者に見られ,名誉が毀損されたという主張に対し,被控訴人は「社会的評価の低下はない」と断定し、控訴人の人格的利益を軽視した姿勢を露骨に示している。
(4)被控訴人は、控訴人の主張を「事実ではない」と繰り返し主張している一方で,被控訴人自身が提出した乙号証については,訴訟内で出先を変化するという極めて異常な状況であるにもかかわらず,
その真正性について何ら説明を行っていない。また,控訴人に対して反論する乙号証を一切出していない。
(5)控訴人の母の死に関する証拠を提出した際【乙第2号証】,被控訴人はその重大性を理解しながらも,本件において控訴人の背景を一切考慮していない。
裁判所は,控訴人の人生における最大級の精神的負担を伴う出来事を訴訟資料として受け取りながら,その人格的背景を完全に無視した対応を行った。
(6)被控訴人は,事件前に撮影された鏡野町長選挙の選挙ポスターの写真(捜査資料)を【乙第2号証】として裁判所に提出した。
これは,被控訴人が,控訴人に公職選挙法に抵触したのでと嫌疑がかかり,捜査を行った(明らかに違法性もないのに控訴人を公職選挙法の被疑者として扱った)ことを示す証拠である。
なお,【乙第2号証】のポスターに関して,控訴人は警察より一切取り調べを受けていない。
これは地方公務員法第36条(政治的行為の制限)に違反する行為であり,加えて公職選挙法 136条(公務員等の選挙運動の禁止)にも抵触しかねない行為である。
(7)被控訴人は,一切違法性のないSNSの書込みを【乙第3号証】として,裁判所に提出した。
これは,書き込み者を控訴人と決めつけた上で,被控訴人は書込み内容に関して被疑者として捜査対象にした証拠である。
(6)と同様,控訴人は取調べを受けていない。
これは,被控訴人は被疑者出ないにも関わらず監視を行っている行為であり,日本国憲法第19条(思想・良心の自由)に反した人権侵害行為と言える。
2.原判決によって生じる社会的萎縮効果
本件は,控訴人が政治活動中であるにもかかわらず多数の警察官が近接して立ち並び,控訴人の周囲に実質的な囲繞状況が形成された事案である。
この状況は,控訴人本人の政治活動を妨害しただけでなく,周囲の国民・有権者に対して「政治活動を行うと警察に取り締まりを受ける」という印象を与え、政治的表現の自由に対する重大な萎縮効果を生じさせるものである。
政治的表現の自由は日本国憲法第21条の中でも最も強く保障される領域であり,公権力による介入が萎縮効果を生じさせる場合には,その目的・必要性・相当性を厳格に審査しなければならない。
しかし原判決において,萎縮効果の有無について一切検討しておらず,政治的表現の自由に対する憲法上の審査義務を尽くしていない重大な違法がある。
控訴人は元鏡野町長選挙立候補者であり,町民に広く知られた政治的立場を有する者である。このような人物が政治活動中に多数の警察官に囲まれる状況は,一般人が単に職務質問を受ける状況とは社会的意味が全く異なる。
イベント会場に多数の町民が集まっている状況下において,政治活動中の人物が警察官に囲まれている様子を目撃すれば、来場者は「政治活動に問題がある人物」「警察に監視されている人物」と受け取り、表現の自由に対する強い萎縮効果が生じることは明らかである。
3.政治活動に対する警察介入の正当性につながる
原判決は,警察官の行為が警察官職務執行法2条に基づく適法な職務執行であるか否かについて,同条が要求する「異常な挙動その他の事情があると認められる場合」という職務質問の要件を全く検討していない。
本件は,控訴人が政治活動中であり,政治的表現の自由が最も強く保障される状況であるにもかかわらず,多数の警察官が近接して立ち並び,控訴人の政治活動を実質的に妨害した事案である。
このような状況では,警察官の介入が警察官職務執行法2条の要件を満たすかどうかを厳格に審査する必要があるにもかかわらず,原判決では行政法上の審査基準を一切検討していない。
これは,行政行為の適法性判断として裁量権の逸脱濫用の審査枠組みを欠く重大な違法であり,原判決は法的評価として到底維持し得ない。
本事件の訴訟において,裁判所が政治活動中の者に対する警察介入を認める判決をすることは,社会制度に対して重大な影響を及ぼす。
本判決を以って警察による政治活動への介入を容易にし,全ての政治活動において公権力の監視・統制を正当化する判例になりかねない。
それにより,日本国内では公権力による政治活動への介入が常態化し,政治活動は公権力の許可と監視を前提とする行為となる。
このような状況では,政治活動としての自由な実践は成立し得ず,日本国内において政治活動そのものが事実上不可能となる。
第9 最後に
本控訴事件は,形式的には30万円の民事事件であるが,実質的には「憲法上の権利侵害と公権力の介入が問題となる重大事件」であり,通常の少額事件の枠組みで処理できる性質のものではない。
名目上は民主主義国家として保障されるべき「政治活動の自由」「政治表現の自由」,行政による監視・介入・妨害によって実質的に機能していないことを示す事件である。
行政が政治活動を監視し,警察が政治活動を制止し,その行為を裁判所が追認する構造が成立すれば,日本国憲法第21条で保障されている「言論の自由」は形骸化し,政治活動の自由が確実に失われる。
これは,日本の民主主義の根幹を揺るがす重大な事件であり,行政の裁量を広く認めることで政治活動の自由が侵害されることは,決して許されるものではない。原判決は,政治活動への公権力介入を事実上容認する危険な前例となり得る。
もし本判決が維持されれば,全国の政治活動を行う者に対し,行政と警察が容易に介入できる構造が正当化され,政治活動は「公権力の監視と許可」を前提とする行為へと変質する。
これは民主主義の根幹を揺るがす重大な制度的危険である。
控訴人は,本件において原判決の審査枠組みの欠落を正し,憲法上保障された政治活動の自由が適切に審査されることを強く求める。
第10 結言
よって,控訴人は,原判決のうち,敗訴部分を取り消すよう判決を求めるものである。
以上,